レット症候群患児のご両親へ
レット症候群発見の経緯
1954年にウィーンの小児科医Dr. Rettは二人の少女がコンスタントに手もみ運動をするのを観察していました。
彼は彼女たちの診断と発達具合を観て同じ病気であることを確信し、
そして、他の6名の女児も調査してフィルムに収めました。
そして同じ症状を持つ患者をヨーロッパ中さがして、1966年2.3のドイツの医学雑誌に発表しました。
そしてDr. Bengt Hagberg (Dr.ハグベリ)がレット女児に同じ症状を発見し、1982年論文で発表しました。
このレポートがレット症候群のおぼろげだった輪郭をはっきりさせて、この病気の詳細が語られるようになったのです。
ハグベリ氏はこの病気のパイオニアのDr. Rettに敬意を表してレット症候群と名付けました。
1999年大きな変化がおきました。
ヒューストンのベイラー医科大学のルーシー、アミール特別研究員がレット症候群を引き起こす突然変異をした遺伝子を発見し、MECP2と命名したのです。
X染色体のXq28の位置にその染色体を見つけたのは、Huda Y. Zoghbi医師に率いられた、ベーラーチームの功績です。
この発見でレット患者に起こっている症状はX染色体の異常によって起きていることが実証されました。
レット博士の講演(要旨)
(1990年11月4日 レット症候群シンポジウムにて)
レット症候群患児のご両親へ
ここに教育者、セラピスト、ご両親などレット症候群に関心のある人達がお集まり下さいました。
皆さんとここで会えたことをとても幸せに思います。
今日は、このレット症候群の研究にとってたいへん意義のある会議を持ちました。
しかし、運動発達に多少の差はありますが、やがて歩くことが出来なくなったり、座ることが出来なくなったり、口へ両手を持っていったり等々の動作が出てきます。
ご両親にとっては人生の中で最も困難な時期だと思います。
何故なら、普通に成長していたはずのわが子に遅れが出てきて、子供の将来に不安が生じてくるからです。
そして医師を訪ねるでしょう。
他の子供と比較して発達が遅れているので、自分の子供に何が起きたのか尋ねます。
医師からこの病気を知らされた時は、とても辛いものだと思います。
私白身、40年間この病気にかかわっていますが、ご両親に説明する時、とても辛いものです。
この病気には、たくさんの問題があります。
この病気の子供たちはとても素晴らしく、とても可愛らしいのです。
それ故、愛することはたやすいことです。
他の障害の子供たちは外見でもそれと分かりますが、レッ卜症候群の子供たちは、外見からは健常児と同じようですし、可愛いのです。
他の病気でこのように可愛い顔の子供たちを見たことがありません。
私の観察によると、たくさんの国、たくさんの子供たちのなかで、このように素晴らしい眼、大きくて丸い眼、輝いている眼、感情的表現をする眼を見たことはありません。
子供たちは話すことは出来ません。
しかし子供の眼はどんな意味を持っているか、どう感じているか、何を見たか等を語ります。
ものを見るための、眼の光学的働き、システム間の繋がりも全て正常です。
子供たちは眼が見える、耳が聴こえると思って間違いありません。
しかしこの病気は眼で見ること以外、外界からの刺激に対して反応することが出来ないのです。
問題は健常児のように明らかに素早く反応しないことです。
あなた方は子供の眼の反応、相手の眼を見て、光を追いかけ、人を追いかける等の反応に気付くでしょう。
思った以上の、素敵な眼を持っていることに納得せざるを得ないでしょう。
この部屋に誰がいるか、兄弟が側にいるかといったことを、見ることは出来ても、話すことは出来ません。
聞くことについても同様です。
聞くことが出来るし、いろいろな音を聞き分けられるのは確かです。特に音楽は、どんな種類の音楽が好きか等々、思ったより以上に音楽をよく覚えていて、響きやメロディーを覚えています。
南アフリカ、南アメリカ、何年か前には日本へも来ましたし、アメリカ、ノルウェ一、 スウェーデン、その他の国々の子供たちを診察してみて、行き届いた世話がされていることに感心させられました。
レット症候群は他の障害と比べても非常に良くケアがなされていると、常々感じています。
今日の会議で、原因解明のための調査・研究がたくさん発表されました。
原因究明には、未だ少々の時間が必要ですが、もう少しのところまで来ていると言えます。
それを見つけることは容易ではありませんが、私も28年間原因解明の努力をしております。
今日の研究では、もう少し時間が経てば理由と原因について解明できると確信しております。
今私が言えることは、この病気は、家系や両親との遺伝的要素はないということです。
そして 最も大切なことは、健常な兄弟姉妹の問題です。
何故なら、この病気が家族に起因するかどうかで家系が途切れたりするからです。
私は、この病気は次の子供に再度起こるということはあり得ない、と断言します。
全く自然発生的に起こる病気です。
1家族で2ケースがあったという例はありません。
これは大変重要なことです。
レット症児を持った家族が必ず質問します、「次の子供は大丈夫でしょうか?」と。
私はいつも、「男の子であろうが女の子であろうが、次の子供はとても素晴らしいお子さんが生まれると約束出来ますよ」と答えています。
キャシーハンター(国際レット症候群協会)会長が、次のような大切なことを言っています。
“Care today, Cure tomorrow”
その意味は、根本治療は、残念ながら明日の研究に待たねばならない。
しかし今日は、子供たちの世話を愛情を持って一生懸命しよう、というものです。
私の好きな言葉です。
根本治療がないとはいえ、レット症児のために出来る療法はたくさんあります。
そしてこれらは、家族の協力があって初めて良い結果が得られるということを、先ず言っておきたいと思います。
また、理学療法、音楽療法、作業療法などの分野で優れた専門家がたくさんいます。
そして、子供の反応をじょうずに引き出すのは、これらの療法士の優れた資質に依存しているということです。
訓練では、子供と訓練者との意思疎通が何より大切です。
問題は、訓練の方法ではなくて、子供といかにコンタクトを取るかということです。
子供の気持ちを掴むことが出来れば、訓練者の意図を達成する事も出来るのです。
私はこの事を、多くの実例から学びました。
この方法は、特別な訓練法を知らなくても出来ます。
いろいろな訓練法の中から目的に合わせて訓練法を選ぶことが必要なのです。
今までお話したことの全ての根底にある言葉は何かと言いますと、それは愛です。
あなたが子供を愛していればこそ、一生懸命に子供のために頑張るでしょうし、どんな療法も効果が上がるのです。
訓練に関して付け加えたいことは、歩行の問題です。
レット症児にとって自ら歩いて移動できるということは、極めて重要なことです。
そして、もしお子さんが歩けるのであれば、その機能を失わないように最大の努力をしなければなりません。
側弯を防ぐためにも、歩行は大切な事だと考えています。
側弯は、これを防ぐために全力をあげなければなりません。
発作について、私の研究によると、レット症児のうち約40%に発作がみられます。
お子さんが発作を起こしてもそれほど怖がる必要はありません。
とはいえ、発作は大変困難な問題ではあります。
お子さんが実際に痙撃発作を起こすと驚きます。
発作には様々なタイプがあります。
しかし、適切な処置と正しい投薬によって、きっと発作は止められます。